9月26日(金)
この日の秦の迎えは午前10時である。私は空調の効いたホテルのレストランで、コピアでない普通の美味いコーヒーを楽しむよりも、朝の涼しい時間帯に市内の緑化事情探索に出ることにした。
ホテルの前庭にはタビビトノキ(オオギバショウ)が見事に半円に近い葉の展開を見せている。この辺りは台風の影響が無いのであろう。私が植物管理工事を受注している国営公園では、台風のたびに葉柄が折れてしまい、せいぜい90度の展開に止まっている。熱帯植物の管理を本業とする私にはうらやましい限りだ。
少し歩くと水路に出た。海抜の低い湿地を開発して都市を形成したのであろう。ステラハーバーホテルから見たフィリピン人の水上集落は、都市開発から見放された一角なのだろうか。水路の土手や街路樹として利用されている高木類はビルマネム、ホウオウボク、マストツリー、アカシアの仲間、フイリデイゴ、インドシタン、マホガニ、オオバナサルスベリ等だ。高木の中で私の興味を引いたのは、クスノキ科のイヌニッケイ(Cinnamommum iners)だ。香辛料のシナモンとしての品質はセイロンニッケイに及ばないが、緑化樹としての品質は格別である。成長が早く刈り込みに耐え、刈り込んだ後に発生する新芽はピンク色をしており本当に美しい。もちろん緑葉に変わった後も日を浴びて照葉となり美しい樹冠を形成する。
ベンジャミナをパラソル状に仕立て、その下に下草をあしらった休憩場所を作ったのは熱帯地方ならではの修景だ。細やかで確かな造園技術が存在していた。
ヤシ類ではココヤシ、マニラヤシ、フォックルテールが主流だ。ホテルやショッピングモールなどの入り口にはショウジョウヤシが植栽されている。美しい赤い葉柄を持ち、株立ちする性質がある。熱帯地方の上質な庭園の修景に利用される椰子だ。15年ほど前に台湾の緑化植物の主要生産地である員林から実生苗を取り寄せて育成したことがある。高温多湿を要求するヤシであり、尺鉢サイズに育てるまでの随分と枯損させた苦い思い出がある。栽培のポイントは水分だった。鉢の下の受け皿に常に水を蓄えると冬季の10度程度の気温でも枯損することは無い。沖縄県では池の修景樹木として水際に植栽したい椰子である。
潅木類ではサンダンカ、斑入りサンユウカ、キバノタイワンレンギョウ、ブーゲンビレアの刈り込み、ポリシャス、ヒメノウゼンカズラ、ルリマツリなどが利用されていた。クロッサンドラとポリシャスの組み合わせも良い仕立て方だ。
草本類ではムラサキオモト、ポリポディウム、スパイダーリリー、ヘリコニア、タマスダレ、ヘミグラフィス、ヒオウギ等多種だ。
グランドカバー植物としてマメ科の通称グーバー(学名Arachis pintoi)が使われていた。ピーナッツの仲間でブラジル原産のようである。
シンガポールやマレーシアの公園、道路緑化として利用されている。以前に訪れたハワイの果樹園では下草として栽培されていた。私も沖縄県北部国道事務所に提案して国道の植栽枡のグランドカバーとして実験したことがある。国道58号世冨慶の中央分離帯、大宮中学校前。国道329号宜野座村、金武町の4箇所であった。本種は夏場の生育は良好であったが、冬季に成長が止まって葉が黄変した。枯れることはないが、他の雑草に凌駕されて次第に衰退した結果となってしまった。南北回帰線の内側の熱帯地域で成果を出す植物のようだ。
リーカス・スポーツ・コンプレックスは展示会の準備が整っていた。入り口のエンテランスの両サイドには販売ブースが並んでいた。その中のひとつにシムのブースがあった。シムと奥さんとパートの女性が立っていた。ラン類、観葉植物、キーホルダーなどの小物、壷などの大小の焼き物、様々なローカルの商品を扱うブースである。
秦が知合いに土産を配っている間に私は展示品をゆっくりと見て回った。ゴルフのスケジュールは午後である。展示会の主力はディスプレイ作品である。マレーシア、インドネシア、ブルネイ、フィリピンの蘭協会や企業が出展している。
私が一昨日泊まったステラハーバーホテル・アンド・リゾートも切り花と観葉植物を組み合わせたディスプレイ作品を出品していた。
鉢物審査ではアランダ・モカラ類、デンファレ、コチョラン、パフィオペディルムが多い。日本や台湾の様にカトレアはあまり見られない。ただカトレアのBc.Maikai ‘Mayumi’がメダルを取っていた。この品種は屋外の樹木の陽当たりの良い場所に着生させても良く育つことから、この地方でも栽培が盛んなようである。
Paph.rothschildianumやP.violaceaはこの地方の原産であり数多く出品されていた。切り花はこの地方の主力切り花品種であるアランダ、モカラ、デンファレが殆どであった。竹筒に生けられておりローカル色が出ている。ランを使った生け花もある。素材はデンファレとバンダ類だ。変わった展示ではサボテンのコーナーがあった。国際洋蘭博覧会の出品として中々奇抜である。
昼食後にシェリーが車で迎えに来た。連れていかれたのはステラハーバーゴルフ・アンド・カントリークラブである。初日に泊まったホテルの隣にあるホテルの系列ゴルフ場だ。ホテル、ヨットハーバー、ゴルフ場が一体となったリゾート施設を構成している。ゴルフ場の駐車場でシェリーの友人の2人の女性ゴルファーが待っていた。そのうちの一人は頭に白い頭巾をまとったイスラム教徒と思しき女性である。2人乗りのカートにゴルフバックを積んでコースに出た。私はシェリーとペアである。コースのレイアウトは池をハザードとして配してある。フラットなコースであるが砲台グリーンをバンカーでガードしてある。フェアウエイはバミューダ芝でラフは深くはないがボールが沈むので少し打ち難い。それでもリゾートのコースであり難易度は低く設計してある。池でハザードを作っているにも関わらずOBでボールをロストすることもなかった。それでも使い慣れないルイスの柔らかいシャフトのクラブでプレーすると90を切ることは出来なかった。シューズも歩きやすいトレッキングシューズを履いていたのでグリーン上では芝を痛めぬように気を使った。シェリーは87で回った。毎週3回程度ラウンドしている。彼女の友人のイスラムの女王はパワフルに飛ばし、「フォアー」と可憐な発声と同時に右に左にクラブを手に走り回った。実に賑やかなパーティである。日本の商社マンと思しきパーティが呆れた顔で僕らを見ていた。まともなゴルフスタイルでない男が騒々しい女性を伴ってゴルフをしているのだから。おまけにイスラムスタイルの女性が一番に騒々しいので、否応なしに目立ってしまうのだ。このようなプレーではコースのレイアウトはあまり覚えていない。パー4でスタートして池越えのパー5でホールアウトしたことだけだ。海が近いので風があって暑さを感じないコースである。以前にクアラルンプール空港の近くでプレーした時には、午前7時30分にスタートして11時にホールアウトしたのであるが、暑さでグロッキーになった覚えがある。内陸のゴルフ場と異なるリゾートのゴルフコースである。
≪2015’2月。ジェリー・ウォンが持参した観光ガイドブックより抜粋した写真≫
ちなみに私の所属するベルビーチゴルフクラブは、海に面した斜面地を折り返しながらワンウエイでプレーするアップダウンの強い戦略性の高いコースだ。夏は海風が心地よく、冬は嵐が丘に変化する風の影響をもろに受けるコースだ。1,2,5,13,16番ホールは左が崖で、6,7,8,10,11,12,14,15,17,18番ホールは右側が崖である。スライスボールでOBとなりやすいレイアウトだ。ビギナーには辛いレイアウトだが、すべてのホールから東シナ海の美しいエメラルドグリーンの海が望めるので沖縄県で最も美しいゴルフコースだと自負している。毎月2,3回プレーしてハンディキャップ14に止まっている。一時期シングルプレイヤーを目指して鍛錬したのは若気の至りであり、現在は楽しいゴルフをモットーにしている。
クラブハウスで軽食を取りながら雑談していると、時折シェリーに挨拶するゴルフ場のスタッフがいた。彼女は気軽に声をかけており、レッスンプロやコースの管理者だと答えた。このコースをホームコースにしているらしい。
ホテルに戻ってシャワーを浴びてロビーに降りるとシムが迎えに来た。蘭展示会の表彰式を兼ねた歓迎パーティに参加するのだ。
会場はリーカス・スポーツ・コンプレックスの施設内であった。僕らはいつものメンバーでテーブルを囲んだ。出品作品の表彰式の前に幾つかの挨拶があり、その中でAPOC台湾の紹介があった。秦と黄がステージに上がり、黄が英語で台湾蘭協会の案内文書を読み上げた。そして最後に「WELCOM TO APOC IN TAIWAN」と締めくくった。その言葉を待って秦がAPOC IN TAIWANのポスターをぱっと広げた。そしてステージから降りてきた。僕らは秦の動作に一瞬あっけにとられ、その後に大声で笑った。皆は口々に「あいつの役割は只ポスターを広げるだけかよ」と秦の動作を真似して笑った。それでも秦がテーブルに着くと「great action」とはやしたてた。
食事をしながら作品の表彰気が始まった。地元のシム、ルイス、ウォンが幾つかの賞をもらった。秦が台湾から持ち込んだ蘭もその中に入っていた。
シムは壇上に上がって賞状と副賞の封筒を持ってテーブルに戻ってきた。そして賞状には目もくれず副賞の封筒を開いて中身を取り出して皆に見せた。赤い紙袋の中身は現金であった。ルイスやウォンの封筒の中身も現金である。
「先輩、この金で飲みに行こう」笑いながら秦が言った。
僕らは市内のバーにくり出し、氷の入った大きなピッチャーにバドワイザーを注ぎ、回し飲みしながらはしゃいだ。滋味の抜けたビールも気持ちで飲めば酔いが回る気がした。










